【発達障害と夫婦不和】第2章 離婚協議①~アスペルガーの夫との離婚協議が難しい理由~
リーブラ相談室では、月に1回の「夫婦・家庭問題専門相談日」を設けています。離婚や別居、夫婦関係の不和、それに伴う子どもへの影響や子どもへの対応などのご相談を受けている元家裁調査官(臨床心理士)が、皆様のご相談のヒントとなる情報をコラム形式でお伝えしています。
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▶ 【第1章】アスペルガーの夫を持った妻のたどる道のり① ~アスペルガーの夫の特徴とは~
▶ 【第1章】アスペルガーの夫を持った妻のたどる道のり② ~アスペルガー夫を配偶者に持った妻が辿る経緯~
前回第1章では、夫のアスペルガーに悩む妻の辿る道のりについてご紹介しました。
第2章は、道のりの最終地点が「離婚」だった場合についてのお話です。アスペルガーの夫との離婚協議はなかなか一筋縄ではいきません。
本章は「①離婚協議が難しい理由」「②夫婦間で協議できない場合の協議方法」と2回に分けてお伝えします。
【第2章】離婚協議①~離婚協議が難しい理由~
<意思疎通がさらに難しくなる>
アスペルガー夫とのコミュニケーションについて「何を考えているか分からない」「会話がかみ合わない」という感覚を持つ方が多いのですが、離婚協議となると、その傾向がさらに増します。特に、夫が離婚に消極的な場合はなおさらです。
例えば、これまで自室にこもりきりだった夫がさらに部屋から出て来なくなり、コミュニケーションの機会すらない場合もあります。また、離婚の話合いをしようとすると、「その話はしたくない!」などと怒りを露わにする、どんな角度から聞いても「だんまり」で全く話が進まない、ということもあります。
<離婚したい気持ちを察してくれない(察することができない)>
妻としては、「夫婦がうまくいっていないことは分かっていたでしょう」とか、「何度も『このままじゃ、夫婦としてやっていけない』と伝えたのに・・」と思うかもしれません。しかし、アスペルガーの夫は、相手の気持ちを察したり、場の雰囲気を読むことが苦手です。そのため、自分が苦痛でなければ、夫婦関係が悪化しているとか、家庭の雰囲気が悪くなっていることに無頓着(理解できない)だったりします。また、「このままじゃ、夫婦としてやっていけない」という言葉では、「離婚したい」という気持ちは伝わっていません。ときには、明確に「離婚」という言葉を口にしていても、夫は自分が受け入れたくない言葉を記憶していないこともあります。
<離婚理由を理解してくれない>
妻が、離婚理由として「子どもが生まれて、大変だった時期にあなたは何も手伝ってくれなかった。そのときから今日に至るまで、私ひとりで孤独だった」と告げたとします。そんな場合、以下のような会話が繰り広げられることがあります。
夫:でも、僕だって仕事をしていたから、なかなか手伝うのが難しかったんだよ。
妻:それも分かるわ。でも、実際に手伝う時間がなくても、気遣いや優しい声掛けがあるだけでもよかったの。あたなはそれもなかったでしょう。
夫:僕にとっては初めての子どもだから、どんなに大変か想像できなかったんだよ。
妻:私にとっても初めてだけどね・・・。まあ、過去のことを言い合っても仕方がないけど、とにかく私はそのときのことがきっかけになって、あなたを信頼できなくなったの。
夫:そんな過去のことで離婚だと言われても納得できないし、そんな理由で離婚だなんて僕は認めないよ。
妻:・・・
夫:そもそも、君はパート収入しかないんだから、育児や家事はある程度やってもらわないといけないよね。
妻:それは分かってるわ。だから、全部をやって欲しかったなんて言ってないでしょ。少し手伝ってもらうとか、優しい気持ちが欲しかっただけなのよ。
夫:少し手伝うだけなら僕だってできるし、これまでもやってきたと思っている。可視化するために、育児・家事の分担表を作ろう。僕は育児・家事の全体像が分からないから、まずは君がたたき台を作って提出してくれ。
妻:・・・・(今さらそんなこと必要ないんだけど・・)
いかかでしょうか。この夫婦の会話には、「あるある」が詰まっています。まず、そもそも離婚理由は個人の自由であり、「納得できない」とか「認めない」というのは夫の言葉・意思です。もちろん、離婚するかどうかは夫自身が判断することですが、妻の離婚意思に対して納得や許可は不要なのです。妻がそう感じている(感じてきた)、という気持ちを理解することができていません。また、最終的に「家事・育児の分担を可視化する」という解決案を提示していますが、これも妻にしてみたら、「そういうことは求めていない」「今更遅い」。しかし、夫は自分の提案が独りよがりであり、それでは解決不能であることに気付かないのです。
<こだわりや思い込みが邪魔をする>
アスペルガーの夫は気持ちを察したり、場の空気を読んだりするのが苦手ですので、多くの場合、突然妻から離婚を突き付けられたような気持ちになります。そして、夫の中では「結婚したら簡単には離婚しないもの」とか「子どもは夫婦揃って育てるもの」といった強い思いがあると、それ以外の選択肢を取れなくなってしまいます。また、相手から離婚を言われることで「自分が悪いと責められている」と思い込んでしまい、「自分は悪くない」という主張を繰り返す人もいます。
<攻撃する>
プライドの高い高学歴夫に多いのですが、「相手から離婚を告げられること自体が許せない!」や相手の希望を叶えることが「負け」だと感じてしまう方もいます。すると、様々な理論をこねくり回し、攻撃してきます。「お前は自分の我が儘で子どもが不幸になってもいいのか!母親失格だな!」「おまえ、おれに反抗していいと思っているのか。法律なんて何とでもできるんだから、俺から一銭でも取れると思うなよ」といった具合です。アスペルガーの夫は、相手の気持ちを想像したり、行間を読んだりする柔らかいコミュニケーションは苦手ですが、一方的に主張するのはとても得意だったりします。
以上、離婚協議①として「離婚協議が難しい理由」として5つをご紹介しました。
このような理由に当てはまらない方もいれば、複数当てはまる方もいるでしょう。「アスペルガーなんだ・・」ということだけで終わらせるのではなく、夫にこのような傾向・行動がみられるなか、自分自身はどうするのか?どうしたいのか?というところを考えていきたいものです。
次回は、「離婚協議② ~夫婦間で協議できない場合の協議方法~」について説明します。
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