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【Libraアイ】教育虐待(前編)

2024.10.07
更新:2024.10.04

リーブラ相談室では、月に1回の「夫婦・家庭問題専門相談日」を設けています。離婚や別居、夫婦関係の不和、それに伴う子どもへの影響や子どもへの対応などのご相談を受けている元家裁調査官(臨床心理士)が、皆様のご相談のヒントとなる情報をコラム形式でお伝えしています。

今回のテーマは「教育虐待」。前編と後編にわけてお送りします。
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「教育虐待」という言葉を聞いたことがありますか?

「教育虐待」とは、親が子どもに過度に学業を課したり、過度に結果を求めることで、子どもに心身の苦痛を与えることを指します。例えば、未就学児を朝5時に起こして勉強させる、勉強が終わらないと深夜まで寝かさない等といったケースが挙げられます。また、頑張っても結果が出ない子どもに対して、「どうして頭が悪いのか」、「こんな子どもを産んだのは失敗だった」などとひどい言葉をかける場合もあります。このような教育虐待の問題は、親子間の問題にとどまらず、実は夫婦関係とも密接に関わっているのです。
このコラムでは、教育虐待と離婚問題について、典型的な「あるある」を詰め込んだ架空の事例でご紹介したいと思います。

  • 「教育虐待」の事例

 Aさんは都会のタワーマンションに住む専業主婦です。夫は小さいながらも会社を経営しており、2000万円を超える年収があります。5歳のかわいい息子にも恵まれ、幸せそのものです。
しかし、実は家庭内では「異常」ともいえる出来事が日々繰り返されていました。

Aさんの朝は5時に始まります。5時に起床し、ご飯を炊き、味噌汁を作り、バランスの取れたおかずを3品ほど用意します。6時になると息子を起こし、一緒に朝食を食べます。炊きたての白米と手作りのおかずが並ぶ食卓は幸せそのもののはず。しかし、2人の会話を聞いてみると・・。

まず、Aさんによる息子への質問攻めが始まります。
「今日のお味噌汁の具は何かわかる?」「お出汁ってどうやって取るんだった?」「ごはんと汁物の置く場所はこれであってる?」「あなたの好きな朝ごはんは?と聞かれたら何て答えるんだっけ?」・・・

息子は一生懸命答えようとしますが、答えに窮すると、上目遣いでAさんを見上げ、「わかんない…」と消え入りそうな声でつぶやきます。するとAさんは、「なんで毎日やっているのにわからないの!」「ママは何時に起きて準備してると思ってるの!」と激しい口調でまくし立てます。息子は下を向いたまま箸を置いてしまい、せっかくAさんが作った美味しそうな朝食に手を付けることができません。

幼稚園から帰ってくると、すぐに着替えてお教室です。息子は小学校受験のためのお教室に週5回通っています。それだけではなく、体操教室や水泳教室、英会話スクールと、毎日何かしらの予定が詰まっています。こうした習い事の月謝は、1か月に20万円を軽く超えます。

お教室から帰ってきても、息子は気が休まることなく、すぐに復習が始まります。そして、夕飯の時もお風呂の時も、「今日はカレーライスだけど、同じ材料で作れる料理は何?」、「お風呂に入る時、かけ湯をするのはなぜ?」と常に質問攻めです。
そして、「〇〇くんはいつも先生に褒められているのに、どうしてあなたはできないの!」「小学校受験に失敗したら、恥ずかしくて外を歩けないわ!」「あなたができないと、ママがパパに怒られるのよ!」「ママ、ばかな子は嫌いなの!」といった言葉で息子を追い詰めます。

そんな毎日を送る中で、息子にはチックや吃音の症状が現れ始めました。また、幼稚園では友達に対して乱暴な言動が増え、先生から注意を受けることもありました。それでもAさんは、取り憑かれたかのように小学校受験にまい進しました。

そんな妻を見て、夫は「まだ5歳なのにやりすぎじゃないか」、「そんなやり方だと息子がつぶれてしまう」と妻の教育方針に疑問を抱きました。そして、休みの日には息子を外に連れ出したり、母親に怒られている息子の味方をするような言動を見せることもありました。

そしてとうとう、夫は妻に対して離婚を切り出します「お前の育児の仕方は間違っている。このままお前に任せておくわけにはいかない。俺が親権者になって息子を育てるから、離婚してくれ」。その言葉は、Aさんにとって青天の霹靂でした。これまで息子のため、そして夫からの期待も背負い、一心不乱に子育てをしてきたのに、その子育てを全否定され、息子も夫も失うかもしれない。Aさんは怖くなるとともに茫然となりました。

  • 事例の背景にあるもの

ここまでの事例経過を読んで、読者の皆さんはどう感じたでしょうか。Aさんをひどい母親だと思ったのではないでしょうか。しかし、実はこの話にはもっと深い闇があります。それは、夫のモラルハラスメントです。

夫は妻の「やりすぎ」に疑問を感じ、そのやり方を注意する一方で、Aさんに対しては「いくら金がかかっていると思うんだ。結果が出なければお前のせいだ」、「仕事もしていないのに、子育ても満足にできないのか」、「お前がばかだから、息子もばかなんだ」と妻を責め立てました。

さらに息子の結果がついてこず、Aさん自身も自信をなくし、夫に対して「もう受験はやめたい」と伝えたところ、夫は「俺はいいけど」という枕詞を付けた上で、「これまでかかった学費は返してくれるの?」「子どもに挫折体験だけ植え付けて終わるの?」「失敗ってことでいいんだね」と言ったのです。

妻は、このメッセージを「後戻りできない」、「失敗したら自分も息子も終わり」と受け取り、日々追い詰められていき、一心不乱に教育・受験に邁進したのです。

冒頭でも書きましたが、教育虐待と夫婦関係は密接にかかわっています
Aさんの場合は夫のモラハラでしたが、それ以外の要因もあります。

例えば、どちらが悪いわけでもないけれど、夫婦関係がうまくいっていないとします。妻にとってそれは「人生の失敗」であり、その失敗を取り戻すかのように「立派な子ども」を育てることに夢中になってしまう場合もあります。

こうした事例を紹介すると、あたかも特殊なひどい夫婦だと思われるかもしれませんが、決して珍しいことではなく、教育虐待は誰でも陥りやすい罠のようなものなのです。

いかがでしたでしょうか?
先月9月にはリーブラ講座「『〈叱る依存〉がとまらない』著者に聞く 叱っても子どもが学ばない理由」を実施して沢山の方にご参加いただきました。大人は「しつけ」のつもりが、ついついエスカレートしてしまうこと、ことあるごとに「叱って」しまい虐待に繋がることもあります。
待は、思っている以上に誰にも起こり得る身近な問題ということです。

さて、次回は「教育虐待の後編」。小学校受験などをサポートする親がなぜ教育虐待に陥りやすいのか?筆者なりの考えをお伝えしたいと思います。

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リーブラ相談室では、夫婦関係や家族の問題などのお話を伺うほか、夫婦・家庭問題専門相談では、お子さまへの影響についても専門家が相談を受けています。

自治体等のサポートも紹介していますので、一人で悩まず、専門家への相談も検討してみてください。

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